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マロングラッセ

投稿日: 2004年9月19日

スペインはガレーシア州のオレンセにあるマロングラッセのメーカー、ポサダ社の訪問記

栗の品種は250種類もあるという。その中で20種類位がマロングラッセに向いているという。ポサダ(Posada)はその中でもマロングラッセに向いているものを近郊からと、ポルトガルからも大量に買い付けている。25kg,40kg,50kgのドンゴロース袋に入れた原料が工場に運び込まれる。

運び込まれた栗は400kg入る正倉院風に隙間の開いた木製のコンテナに入れられる。このコンテナはポサダ独特のもので5段に積み重ねられて(スタッキング)いて、上から順番に下のコンテナに落下される。順に落下させて空気に触れさせる(エアレーションと呼ばれるプロセス)作業を、一人で50トンこなす。イタリアのクーネオにあるアグリモンターナ社(http://www.agrimontana.it/en/welcome.html)では洞窟の中へ栗を運び込み、5-6人の人間がスコップで上下を入れ替え伝統的と称するエアレーションの方法をを行っている。これは人件費が高くつく。ポサダ方式ではこのプロセスの省力化を図っている。

栗はサイズ選別機にかけサイズの大きさ別に仕分けられ、それぞれのサイズ別のコンテナに入れる。これを皮むき機にかける。これは日本製の機械で、オルトフルッティコラ・デル・ムッジェロ(イタリア中央部)でもセカ(イタリア、アヴェリーノ)でも同じ機械を使用していた。栗の皮の表面に100-120℃の蒸気と、80-85℃の温水を吹き付けながら、栗の皮の表面を渋皮まで届かない深さで切り傷をつけていく。温水を噴射する目的は皮を柔らかくするためである。この機械はいずれのメーカーも同じ日本製のものを使用している。

次に切り傷をつけた皮が、めくれるようにささくれ立っている先端を連続したローラーに挟み込むようにして皮を剥ぐ。皮を剥いだ栗をベルトコンベアに流し、メタルディテクター(金属探知器)を通過させた後、潰れた栗、皮がうまく剥がれていないものの皮を剥ぎ取ったり、異物が混入していればそれを除去したりする目視選別(OPTICAL)を行う。少しでも鉄片が混入していると栗の中に含まれているタンニンの影響で栗が錆色に変色する。選別した後、品種、サイズごとにカートンケースに入れ冷凍し、保存する。

解凍はプラスティックトレーに並べ、1-3時間かけて自然解凍を行う。解凍した栗はプラスティックトレーに入れたまま、70-80キロをステンレススティールに沢山穴の開いたコンテナに入れられる。コンテナごと入る真空釜で約3時間かけボイルされる。最初の45分間は低温で、次の1時間は高温で、次に温度を下げ加熱する。この温度については質問したが、詳しく教えてくれなかった。どうやらこの辺にメーカーのコツがあるらしい。チョコレートのテンパリングの熱交換処理と似た処理を施すのではなかろうか。

次に1週間かけて、栗のもつ水分と糖蜜を入れかえる作業に入る。シロップの入ったプールに栗の入ったコンテナを漬ける。このシロップの度数を毎日上げていく。浸透圧の作用を利用して栗の糖度を飽和点まで持っていく。シロップは水飴(コーンシロップ)と砂糖で作るがこの割合は開示してくれなかった。毎日、シロップの糖度は高くなるがこの糖度の度数も教えてもらえなかった。

このプロセスはマロングラッセにとって最も大切な部分である。今まで見たなかで最大のプールは、クーネオのアグリモンターナ、次にオルティフッルティコラムジェロ、アヴェッリーニョのセカであった。この糖蜜のプールの大小が生産の大小とイコールである。コンフィザー・ド・バルヴィジュ(CDB)は新式の加圧式(日本はこの方式のもの)のものであった。プール式のものはチョコレート生産でいうと往復コンチェとロータリーコンチェほどの差があるようである。ポサダのプールはあまり大きくないので中規模生産の工場と見てよい。

栗の糖度が飽和点に達したら今度はフォンダントクリームを被覆(エンローブ)して、乾燥させる。このフォンダントクリームが乾燥した後、透明なガラス状になるとマロングラッセである。グラッセはフランス語でガラスのことである。

日本で饅頭を包む包装機で知られる川島機械の包装機で1個ずつ包装する。包装したマロングラッセは箱詰めや、瓶詰めにされて製品化が終了する。ここで注目したいのはポサダの瓶詰め方式である。エージレスを入れ、瓶詰めをし蓋をしたた後、真空にする機械にかけ瓶の中の空気を抜くことである。瓶の縁のテフロンの隙間から蓋をした後空気を抜くのである。この方法は、偶然、発見したらしい。瓶詰めのものが真空状態になっているのはエージレスが瓶の中の酸素を吸収した結果であると思っていたが、現実はそうではなかった。

マロングラッセの良いものは、表面が適度に固く、内側が柔らかいものである。フランス語でmoelleux(骨随)と言うのだそうだ。このような状態が保てるのは自然の状態では3ヶ月が限度で、2ヶ月過ぎると硬化現象が起きることはCDBで我々も経験済みである。ポサダ方式の真空パックを施したものは賞味期限がゆうに1年以上保てる。現に5年経過したものを開けて試食してみた。風味は抜けていたが硬化は全く認められなかった。

日本で販売されているマロングラッセはマロングラッセとは呼べないのではなかろうか。特にドイツ製のフローパックで包装された○○○製菓等が販売しているものは真のマロングラッセを駄目にしてしまっているのではないか、と尋ねたところ「その通りです」、「あのドイツ製の真空包装のフローパックは完全なものではありません」とだけ答えた。

午前中、丁寧に説明をしてくれていたが、12時半頃から栗の自然林の見学に行こうと誘ってくれ4人で出かけた。20キロ程山間に入っていくと樹齢400年-500年という巨木があり、記念に800年の樹齢の木に登って写真を撮ってもらった。

自然の栗はマロングラッセには良いものとは言えない。マロングラッセに適した品種のものを栽培して収穫したものが最も加工に適しているのだと説明を受け、その品種の接ぎ木をした農園を見学した。栗もカカオビーンズと同じ、農産物であるということが身にしみて分かった。

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