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アメリカの流通業界の現場を見る

投稿日: 2008年9月29日

アメリカの流通業界の現場を見る

1970年8月9日から8月18日まで、日本商工会議所・日本青年会議所共催の米国流通機構視
察団に自費で参加した。商工会議所50名、青年会議所63名、報道関係者2名、合計115
名の視察団であった。早稲田大学の商学部・宇野政雄教授が講師で昼は市場視察、夜は昼間見た業
態について丁寧な講義をうけた。1973年から、大学院商学研究科で「流通機構研究」と「マーチ
ャンダィジング研究」の講座をもった気鋭の宇野政雄教授のもと参加者は熱心に議論を交わした。

http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/4512/1/92112_249.pdf

宇野教授の他に荒井好民、高橋喜代春の2名の講師が同行した。中でも当時(株)ブルーチップの
常務取締役であった荒井好民はまるでわが子をおしえるように熱心にアメリカ流通業界における
業態の違いについて講義を行った。疲れて眠い参加者を叱咤激励して徹底的に鍛える熱血漢であった。Department Store, SM(Super Market), CVS(Convenient Store), GMS(General
Merchandise Store), DS(Discount Store), Shopping Center, Member Club, これらを建設するDeveloper等々。参加者はまだ日本に存在しない個々の業態の違いについてなかなか理解でき
ない。理解できない 業態については明日訪問する予定の店の名前をあげ、明日には理解できるから
と言って我々を励ました。(1980年に出版された「ニーマン・マーカスこれがベストだ!」の翻訳が
荒井好民であった。このなかで著者のスタンリー・マーカスがベルギーのノイハウスについて触
れている。この数行の記述が、後年、私がノイハウスジャパンを設立するきっかけになった。)

日ごろ耳にする「流通革命」という言葉の意味について我々は宇野教授の講義の後、現場を自分の
目で見て初めて理解できた。マーケティングという言葉も同じであった。生産者の視点と消費者の
視点からとらえたパブリック・リレイションへのアプローチで多くの朦朧とした概念が具体的、明
確に理解できた瞬間であった。流通機構のハード面とソフト面からの解説でスケールメリットので
る物量はいくら必要か。マーケティング・コミュニケーションについてマスプロ、マスコミ、マス
セール、パブリシティー、配送効率等、昼間実際にみた現場からの具体例の講義なので、明日の日
本はこうなるのだと胸をワクワクさせながら聞いた。初めてのアメリカ訪問であったが私の脳裏に
茫洋としていた流通革命の概念が鮮やかな色彩を帯び、次はどうなるか、どう対応するかが分かっ
てきた。

バカでかい駐車場、あらゆる業種の集積が可能になるショッピングモール、セーフウェイの配送セ
ンター、シアーズローバックの倉庫でのピッキング等々、見るもの聞くものすべて驚きであった。
グルメショップにあるチョコレート、クッキー、ソーセージ、チーズ、ワイン等の品揃えがヨーロ
ッパのそれとは随分変わっていた。いかにもアメリカ的なHickory Firms of Ohio の食品ブティッ
クの店内装飾、陳列方法は開放的で魅力的であった。持ち帰り禁制のサラミソーセージを密かにト
ランクにつめた。チョコレートは塩味のシーズ(Seas)が大量生産の板チョコ一辺倒のなかで異彩
を放っていた。後日、サントリーの鳥井道夫専務より「こんなチョコレートをつくってはどうか」
と見本をアメリカで買って帰ってきた、秘書が届けに来た。ありがたいことであった。
初めてのアメリカ旅行は業態研究、マーケティングの実際を店舗、配送センターを見学しながらの
概論修得旅行であった。19歳のとき「アメリカでは、チョコレートは10セントストアーやドラ
ッグストアーで売っている」と大学の英会話の教授から聞いていた実際の店舗を見ることが出来た。

問屋の倉庫、SSDDS (Self Service Discount Department Store)、SM (Super Market)、SSM(Superret)、GMS (General Merchandise Store)、DS (Discount Store)、
CVS (Convenient Store)、DPS (Department Store), Member Clubの違いを都市部と郡部で見て、ナショナルチェーン、リー
ジョナルチェーンの品揃えの違いまでよく理解できた。

ラックジョバー (Rack jobber) や、所謂、ブローカーとのグループインタビューが実現した。日本
のブローカーという言葉のもつニューアンスと、アメリカのそれとは大きな隔たりがあった。単な
る口利きではなくあらゆる菓子についてプロフェッショナルな見識を持っていてスーパーのバイヤ
ーに建設的な助言を与えることを業務としている。ラックジョバーもメーカーの代弁者ではなくど
の商品を扱うことがその地域で最も利益につながるかを、正しい知識が彼等のビジネスを安定させ
ることにつながるかを知っている。ナショナルブランドについてのみならず、プライベートブラン
ドのマーチャンダイジングやプロダクト・プランニングについても相当の知識を持っていなければ
ならない。ここで中内功の唱える ”SSDDS & Chain Stores” の意味が理解できた。
ユニット単価は日本とは比較にならないほど安い。それは1個あたりの重量が違うこと、包装費が
極端に簡素化されていることに、大きな理由がある。日本の袋物は50グラム、100グラムが主
流であるが、アメリカはハーフポンド、1ポンド(454g)が最低の重量である。包装材料も単
体のフィルムを使っている。日本では捨てるものに多大の費用をかけている。メーカーが本当にユ
ニット単価を下げようとする意志があるのか。

さらに日本との大きな違いは注文ロットの違いである。一品の発注ロットは20フィートコンテナ
一個がミニマムロットである。プライベートラベルの初回発注数は20万個、ヒット商品は1年間
で2000トン以上になる。何から何まで量の大きさが違う。ここでも利益の共有化を図り、専門
のOEM(相手先商標製品製造)メーカーが育っている。このアメリカ視察は大きな啓示を与えてく
れた。このときの経験が翌年のダイエーが行った米国視察団に加わってより具体的で、明確なマー
チャンダイジング(商品化計画)を自分のものにすることができた。

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