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ダイエーの第1回アメリカ食品流通機構研修団(1)

投稿日: 2008年10月13日

ダイエーの第1回アメリカ食品流通機構研修団(1)

1971年8月5日から10日間、ダイエー商品第2部の主催で第1回アメリカ食品流通機構研修
団に参加した。羽田を発つ前に中内社長、越智部長から熱い思いをこめたオリエンテーションがあ
った。しかし残念なことに主催者側(ダイエー商品部の課長、係長)も参加者側も昨年の視察団と
は雰囲気が違っていた。なにか華やいだ物見遊山気分があった。笛吹けど、部下は踊らず。
ただ、私にとっては昨年と今年の2回にわたるアメリカの食品流通業界の視察がその後の私のマー
ケッターとしての活動におおいに役だった。特に日本商工会議所、日本青年会議所主催の視察団で具
体的な業態研究ができたこと、ダイエーの研修団ではサンキスト、CAGE、ドールといった一次産
品の現場から、マーチャンダイジングまでの全工程を見て、様々な啓示的教訓を学ぶことができた。
特にCAGEとサンキストは協同組合でありながら日本のそれとは大きく異なることを学んだ。米国食
品流通視察から多くの小売業態の特徴や、垂直的な一次産品の商品流通の現場をつぶさに観察した。
ここで得た知見は極めて、実戦的なものであった。(私の日誌と株式会社ダイエー第一回アメリカ
食品流通機構研修団のテキストブックおよび報告書を参考にして論述したい)。
そのころダイエーはSSDDSナショナルチェーンを標榜していた。従ってダイエーの中内社長、越
智部長は7名の社員と取引先の68名にアメリカの流通システムを生で見て、核心的なノウハウを
体得して帰ってこいと、強く念じていたに違いない。

1971年8月5日(木)

羽田を11時15分に出発して、日付変更線を通過後、同日の0時19分ホノルルで入国、同じ飛
行機でサンフランシスコへ向かう。サンフランシスコ到着は午前11時20分、長い1日が始まっ
た。フィッシャマンワーフで昼食、ゴールデンゲートを一瞥の後、サンフランシスコ郊外のシェラ
モンテ・ショッピングセンターを訪問した。駐車場の大きさにまず喫驚。なんと7000台以上が
収容できる。このショッピングセンターはデパートメントストア、スーパーマーケットが核店(マ
グネット店)となっている。核店を中心に専門店、レジャー施設が集まっている。前年にも感じた
ことであるがアメリカ小売業界の競争は日本以上の熾烈を極めている。出店立地とシステム(出店
業者の組合せ)の優劣が大勢を決める。

8月6日(金)

6時起床。7時朝食。8時出発。サクラメント市のアーモンドグロワーズ、CAGE (California Almond
Growers Exchange) の本社工場を訪問。定刻の10時から研修が始まった。副社長、輸出担当部
長(John Philip Axcer)の歓迎挨拶につづいて、まずCAGEのPR映画を見る。見終わって、組織
の概要を聴く。何事も巨大なアメリカであることは承知していたが想像を遙かに超えるものであっ
た。

CAGEのアーモンド畑の広さは、221,000エーカー(約8万5000ヘクタール)と広大なもので
ある。1910年に230人のメンバーでこの組織を立ちあげた。当時の取扱高は1440トン。1967
年にIBM360/40を導入。1969年度の加盟メンバー数は4710。取扱高は78270トン。1メンバ
ーあたり16.5トン、という数字である。売上高は6500百万ドル。日本円に直すと1ドル360
円換算で23400億円である。1メンバーあたり約5億円。メンバーあたりの数字を見るかぎりそ
れほど巨額とは感じない。しかしメンバー数は巨大である。わが日本チョコレート工業協同組合の
メンバーは38。それと比べると途方もない数字である。
副社長(輸出部長)の上記の説明が終って工場見学。

8月から9月が収穫期で9月から11月が工場での加工・包装の繁忙期である。1200名が工場で働
いている。製品数は1000種類に及ぶ。総生産量の50%が輸出される。その内の10~15%
が日本への輸出量である。日本は最も大切な得意先であり、そして、将来とも有望なマーケットで
あると認識している。不二家、タカギベーカリー、味覚糖等のダブルチョップ商品を請けている。
カルフォルニア盆地から集められた殻つきアーモンドは300種類の検査項目に基づいて格付け
を行い、直ちに代金が生産者に支払われる。工場には100万ポンド(453トン)を収容できるサ
イロが12基あって、逐次製品に加工されていく。工場は5階建である。

5階 殻を割り種子を取り出す(crash)。クリーニング(cleaning)と格付け(grading)。

4階 色彩と形状を電子の目で仕分けする。(後にわれわれもこの機械を使ってピーナッツチョコ
レートのピーナッツを選別した。)

3階 包装階。

Cutting Line スライス、チョップ状、プードル状に加工する

Breaching Line 格外品の除去

Cellophane Line    セロハン袋詰め

Foil Pack Line アルミ箔の袋詰め

Tin Pack Line ブリキ缶詰め

2階 Manual Inspection Line 4階で選別を行っているが最後に目視による選別と夾雑 物の除去を行っている。政府農商務省のインスペクター役 人と自社のインスペクターで厳重な検査や品質管理を行っている。

1階 Packaging, Stocking Lines 梱包をしてストックヤードで保管する。
特筆すべきはCAGEの検査員が政府農商務省の検査員と共同で最後の検査を厳重に行っていたこ
とである。日本の農水省の役人あるいは厚生労働省(保健所)は決してこのようなことは行わない。
制度がない上に、品質管理について事前にチェックするという発想が完全に欠如している。何か重
大なミスがマスコミ等で暴かれてから、ものものしい体制で「立ち入り検査」を、権力を誇示しな
がら行う。馬鹿げたことだ。消費者不在の行政である。
工場のフローリングはすべてエナメル塗装でチリひとつ落ちていない清潔なものであった。本社工
場、倉庫の従業員数は1200名。時給は男女の区別なく時給2ドル80セントで思っていたよ
り安い。

倉庫に隣接した敷地に新しい建物を建築中であった。投資金額は実に350万ドル。4000万ポンド
(18000トン)の貯蔵機能を持つ倉庫と配送センターの増築であった。
副社長のプレゼンテーション、工場見学時の通訳には総合商社のアメリカ駐在員が行ったが、生産
ラインに携わった経験がないので生産現場でのジャーゴン(jargon)を知らない。参加者の中には
商社を含めメーカーでない人間も多かったので機械の説明においては具体的かつ実際の効用まで説
明する必要があったが、出来る人はいなかった。ここが昨年の視察団との大きな違いであった。やは
り専門家の通訳が必要である。1965年にヨーロッパのチョコレート工場を自分一人で歩いた時は自
分の思い通りに見学できたが今回は団体のため質問もままならない。また、あちこち欲張ってスーパ
ーマーケットやショッピングセンターを見て回るので時間的にも大きなロスがあった。

      <つづく>

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