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ニューヨークのバレンタイン(6)

投稿日: 2009年6月14日

ニューヨークのバレンタイン(6)   

マノン(Le Manon Chocolatier)

いかめしい骨董品をならべて自社のチョコレートも古くから存在しているかのごとくアピール
しているベルギーのプラリネメーカーを訪ねたが、バラエティーに乏しく、陳列量もすくない。
最近出店したらしい。どこかちぐはぐで興味は湧かない。ブルーミングデールがベルジャンチョ
コレートを派手に取りあげているのでそれに便乗した感がある。

スイス・トイシャー・チョコレート(teuscher chocolates of switzerland)

チューリッヒの比較的新しいチョコレートメーカーである(1940年代の創業)。ニューヨー
クに2店舗ある。チューリッヒの店の雰囲気は可愛い人形を使った演出だった。この演出はここ
でも同じである。マノンとは比較にならない規模の路面店である。製品は毎週2便、空輸で商品
補充しているとのこと。ローズガーデンにある近くのペーパー・プッペ(Paper Puppe)のウイ
ンドーディスプレーは明らかにこの店に影響をうけている。日本のトイシャーは原宿の雑居ビル
に出店しているが小さな店で周囲の猥雑な店舗に埋没してしまっている。

エロティック・ベーカー(Erotic Baker)

間口のせまい小さな店はグリニッチヴィレッジにあった。18才未満お断り、アダルト・オンリ
ーの看板があった。話題性はあってもお菓子の技術的な部分には見るべきものはない。稚拙で卑
猥。男性・女性の性器を露骨にチョコレートモールドで成型したものや、女性の乳房、唇等が
なまなましく並べられている。クリストファー通りはホモの集まるところで名高いといわれる。
そんな場所がらゆえかこんな商品でも存在理由があるのだろう。いずれにせよ本流たりえない。

ライラック・チョコレート(Li-Lac Chocolate)

グリニッチヴィレッジの「ランドマーク」と呼ばれるほどの有名店であるが、間口3間、奥行き
10間ほどの路面店である。表で販売し裏で製造している典型的なマニファクチャー(家内工業)
である。1923年創業で現在3代目である。彼に直接話を聞いた。40種類ほどのチョコレー
トは販売に見あう数量を毎日小ロットで手作りしている。この作り方もレシピも初代からの基本
方針を実直に踏襲してきた、と。最近「バーニー」(ニューヨークを代表するファッション専門
店)に出店したり、クリスマス、イースター、バレンタイン等のアイディア商品がヒットしたり
して経営的には満足する状態にあると言う。価格は1ポンドあたり6ドル50セントから16ド
ルといい値段だがきわめて良心的である。日本の芥川製菓やメリーチョコレートがバレンタイン
セールで販売している多くのチョコレートのひな型がここにあった。

クロン・ショコラティェ(Kron Chocolatier)、スイートテンプテーション(Sweet Temptation)
の2店舗を再訪問した。電話器、電卓、2リッター瓶、女性の脚(Leg)、女性の胸部(Chest)
等々アイディア製品は日本の芥川製菓が先かこれら2店舗が先か分からない。スイートテンプテ
ーテョンの夫婦は以前東京の白金台に住んでいたという。スイートテンプテーションは子供向け
の駄菓子に見るべきものがあった。メキシコのお祭りに使う用品、ピナタを販売していることが
ここの自慢である。パーティー好きのアメリカ人にはパーティーサプライズに欠かせない商品が
並んでいることがありがたい。いずれにしろ世界は年々小さくなり真似がまねを呼びもはやどこ
が元祖か分からなくなってしまった。電卓チョコの数字キーや電話機のダイアルの文字は転写シ
ートで転写するのであるが、この方法は日本のプリント基板の技術からできたものだ。この技術
をチョコレートに応用した技術者に会って尋ねたことがある。日本では誰も相手にしてくれなか
ったそうだ。そこで彼はヨーロッパのチョコレートメーカーにそのノウハウを高く売ったと言う。
1960年代初めのことだった。

ペーパー・ハウス(The Paper House)

サンリオの菓子のアイディアもニューヨークにあった。キティだけでは菓子はできない。クロン・
チョコレート、スイートテンプテーションとともに、ここには子供向けの駄菓子やアイディア商
品が溢れている。ペーパー・ハウスはパーティー用品の専門店である。パーティーに明け暮れる
ライフスタイルがあってこそ、これらの店は成りたっている。10月のハローウインのときは考
えられるだけの仮面がそろえられる。概して日本人は家に人を呼ぶことを好まない。ましてやパ
ーティーを積極的にしようとする人は稀である。こんな風土の日本にはこのようなパーティー・
グッズの専門店は根付かない。

ホールマーク・ギャラリー(Hallmark Gallery)

12日にこの有名なカード店を訪れたが、なんと大雪のため閉店していた。バレンタインのかき
入れ時に店を開けないのは余裕綽々か(1910年創業)。14日はバレンタイン当日とあって店
内は盛況で長蛇の列。バレンタインセールには店員のコスチュームがキューピッド姿になるので
評判であったが、この日は大雪の後遺症のためかキューピッド姿に扮していなかった。(クリス
マスには妖精の扮装をするという。)行列客はほとんどカード1枚のみの購入。10ドル以下は
キャッシュのみでクレジットカードはお断りと、ここでも販売者が強い。キャッシャーはほとん
ど全員が黒人であったことが強く印象にのこった。

カードのコレクションはあらゆる情景を想定したカードがすさまじい種類で陳列されている。整
理整頓が大変だ、と一瞬脳裏を横切ったほどだ。送り主の気持ちを表すキャプションもあらゆる
場面にうってつけのものが揃っている。秀逸なものは ”hi!” だけのカードである。ギフト好きは
日本人だけと決めつけているがニューヨーカーはそれ以上だ。いままで訪問してきた店はすべて
ギフトが中心である。ギフト産業は日本以上に盛況だ。日本の熨斗紙に相当するのがホールマー
クのカードだ。日本の中元・歳暮にあたる進物シーズンがないだけで、イースター、ハローウイ
ン、クリスマス、バレンタイン、母の日、父の日と進物チャンスは目白押しだ。とりわけパーテ
ィーの多いニューヨーカーたちにとってパーティーに持参する手土産には気を遣っている。

パーティー・グッズも充実した品揃えがなされている。色と柄をそろえた紙コップ、紙皿、紙製
のテーブルクロス等々。やはりここはアメリカだと思った。この色と柄を選択するとき個人の好
みが反映されパーティーのホスト、ホステスの自己表現を支援してくれる。お金の余裕があれば
紙コップでなくクリスタルグラス、クリスタルディッシュも手に入る。西洋人はキャンドルが好
きだ。様々なキャンドルとキャンドル立ても用意されている。造花もある。ゲストブックもある。
そこに来訪者が書きこむペンとペンホールダー。これらを乗せるデスクマットの組合せ。パーテ
ィーを演出する数々の小物が心憎いばかりに用意されている。パーティー用品の深掘り店である
ことは間違いない。

参考:マキシン・ブレイディー著「ニューヨークベスト200店」(ツタガワ・アンド・アソシ
エーツ)

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