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ニューヨークのバレンタイン(9)

投稿日: 2009年7月5日

ニューヨークのバレンタイン(9)   

7月14日バレンタイン当日の朝7時にバルドゥッチを再訪した。早朝開店、年中無休はニュー
ヨークの食品業者の心意気に触れたようでうれしかった。閉店は月~土は午後8時30分、日曜
は午後6時30分。ライバル、ゼイバーは日~木は8時開店、午後7時30分閉店、金曜日は8
時開店、午後10時閉店、土曜日は深夜自然閉店とある。この営業時間を比較しただけでも面白
い。

ともかくバルドゥッチは早朝にもかかわらず賑わっていた。小さな飲食店の主人とおぼしき業務
筋の仕入が活発である。結構なまとめ買いをしていた。バレンタインの特別なセールはなかった。
チョコレート売場にバレンタインの文字はあったがそれはチョコレート売場だけでなく、全ての
売場にバレンタインに好適品とキャッチコピーがつけられていた。日本の訴求方法とはまるで違
った。

8時すぎにゼイバーものぞいた。ここはバルドゥッチより閑散としていた。ここは業務筋を相手
にしていないし、業務筋もあてにしていないのであろう。何といっても生鮮3品がなくては業務
筋には弱い。閉店時間をみても煮炊きすることを面倒だと思っている独身貴族の消費者が相手で
あろう。チョコレート売場は実演販売を前面に押し出して充実しているが早朝では商売にならな
い。

ニューヨークに来た目的を果たすべくライラック・チョコレート、クロン・チョコレート、トイ
シャー・チョコレート、スイートテンプテーション、ホールマーク・ギャラリー、メーシー、ギ
ンベルズ、ティファニー、SAKS、ブルーミングデールをバレンタイン当日に照準をあてて精
力的に見てまわった。ギンベルズは野外にテントを張ってチョコレートを山積みにしていた。特
にハーシーのキスチョコ、ベルジーナのバーチは中央の平台に大量陳列をしていた。これがアメ
リカの大陳の見本だといわんばかり積みあげてあった。この売場演出は日本では絶対に売れない。
これを買う階層がいないこととマスコミの情報量が違うことだ。日本はストーリーにこだわり、
ディテールにこだわる。百貨店、スーパーマーケット、小売路面店すべてにマスコミが煽るバレ
ンタインチョコ・フィーバーが日本列島を覆いつくしている。そして全ての業者がその恩恵を蒙
っている。

[ペルジーナは今やネッスルの傘下である。]

日本の百貨店でもスーパーマーケットでもバレンタインの特設売場が設けられる。百貨店ではワ
ンフロアー全部がバレンタインチョコレート一色である。これは販売業者の1年1回のお祭り行
事である。14日の閉店と同時に残った製品は出店業者がすべて引きあげて帰る。有名な量販向
けのメーカーではその返品額は数億円をくだらない。お祭りには祝儀が必要だ。業界あげての一
大イベントは金がかかる。バレンタインチョコレートの販売方法そのものにはニューヨークでは
学ぶべきものはなかった。それは取引の形態が違うのであるから当然である。

ここでハマッシャー・シュレマー(Hammacher Schlemmer)のギフトの考え方がようやく理
解できた。ここはわざわざ店に行かなくても顧客には定期的にカタログを送っている。面白い商
品を見つけたら注文すれば郵送してくれる。「世界にひとつ」だけの贈り物がここの売りもので
ある。ひとつ120ドルのものから4440ドルのものまである。「世界にひとつ」というキャ
プションによって一国の君主が何人も顧客リストに登録されている。一国の主ともなればいつも
珍品の贈り物が必要である。もうひとつの売りものは顧客がこんなものを探してほしいという注
文に応えることである。日本のカード型の電卓などは珍しい間は盛んに売ったらしい。しかしあ
ちこちの文具屋に陳列され始めるとすぐ取り扱いをやめる。贈り物の取り扱い要諦は陳腐化する前に
やめることである。

リッゾーリ(Rizzoli) アート関係(美術、写真、建築等)の本屋。国際的に店舗展開をしてい
る。ニューヨーク店は店構えも重厚で本の虫にはこたえられない。リッゾーリ・ギャラリーで面
白い展覧会があったのでニューヨークに着いたときからリッゾーリには行きたかった。天井がお
そろしく高く背の高い人でもハシゴを必要とする。その高さにぎっしりと高価な本が詰まってい
る。時間のある人は1日中いても飽きない。こちらは時間がないのでちょうどギャラリーで展示
していたワグナーの「リング」に出演した全キャストの等身大の油絵、30点を見てまわった。
画家はアメリカ人、リン・カーリー(Lynn Curlee)。1978年から1982年まで4年がか
りで制作した労作である。

1876年にバイロトでワグナー自身が演出した楽劇「リング」に出演した歌手たちの写真にイ
ンスパイアされて制作したものだと解説されていた。ヴォータン、ジークフリート、ブリュンヒ
ルデ、エルダを含む全キャストの油絵は2.2メートルのカンバスに生き生きと描かれていた。1
点、5000ドルから10000ドルで、全作品一括買上の時は10万ドルと提示されていた。
日本の丸善も紀伊国屋も同じような展覧会はあるがこのように天井の高い、古めかしい建物の空
間はない。

フランク・ミュージック(Frank Music Company)楽譜専門店に立ちよった。大阪のササヤよ
りも規模が大きく専門化している。ピースものが多く時間があればじっくり見たかった。高声用、
低声用の声楽曲もあり何も買わずに立ち去るのは残念であった。住所、氏名、支払いクレジット
カード等を登録しておけば郵送してくれるとのことであった。その後、ティファニー、ダンヒル・
テイラー、カラブリー・イブリン、アンソニー、ジーン&デルーカ、ギャップ、スターバックス
等を駆け足でまわった。夜は東京ツアーズの社長、柴田淳一を招待して食事をした。最新のニュ
ーヨーク情報を詳しく聞くためである。

<つづく>

参考:マキシン・ブレイディー著「ニューヨークベスト200店」(ツタガワ・アンド・アソシエーツ)

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