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「ナショナルブランドとプライベートブランド」(2)

投稿日: 2009年12月13日

「ナショナルブランドとプライベートブランド」(2)

ここに述べる議論はチョコレートのPBを開発するたびにメーカーとバイヤーの間で交わ
されるものである。原料表示は使用した量の順に書くことになっている。しかし原料の構
成比は表示しなくてもよい。表示違反でなければ合格ということになる。これは消費者の
側にも一端の責任がある。甘いものを敬遠するためメーカーは植物性油脂を増やしたり、
ホエーパウダーなどを原料に使ったりして甘みをおさえる。これも前に書いたが、英国の
19世紀末に書かれたチョコレートの本に、チョコレートにはココアバターではない植物
性油脂を使ったり、増量のためにホエーパウダーを使ったりしている偽和商品
(adulteration)が多いので注意することと記述されているのを読んで笑いが止まらなかった。
(注: adulteration = food adulterant = 混ぜ物をして品質を落とすこと。粗悪品。改質。)

どこからどこまでを偽和商品というのか。原料だけでなく食品添加物についても注意を払
う必要がある。私は紛らわしい商品、つまり、チョコレートではないのに、マル準チョコ
レートと表示すれば食品衛生法違反にならないことにいらだちを感ずるのである。まして
や植物性油脂が5%含まれていてもチョコレートと表示できる「業界自主規約」にも腹立
ちを感じる。いまやEUも日本に倣って同じような表示になった。だが、フランス、ベル
ギーは5%の植物性油脂の混入をチョコレートと呼ぶことに反対である。スイスは国会で
植物性油脂の5%混入議案を否決した。磯部晶策によると「欧米諸国の多くが、偽和を犯
罪と見て取締り対象にしていることと比較すれば、日本は偽和天国といえるかもしれない。」
(前掲書、81頁。)
最後は価格の問題になる。NBより2割安い売価で粗利は3割以上の商品を作れと迫る。

単純計算をすればNB売価の45%掛け以下で納入せよということだ。販売ノルマを達成
しなければならないメーカーは表示義務に違反しない品質でPBをつくる。このPBの販
売契約には年間販売数量の契約が曖昧であることが多い。契約できたとして実際に売れる
数量はとても大量とはいえなない量である。すべてメーカーリスクである。またそうする
ことによって注文を確保したいメーカーも多い。

日本の製菓メーカーの場合、24時間フル稼働で工場を動かす意識があまりない。欧米の
PBメーカーのロットは、単品あたり1日24時間フル操業(3直という=Three sifts)
で、月曜日から金曜日までの5営業日の生産数量である。このような数量を契約する量販
店は日本では皆無である。

印刷の1ロット(フィルムで3000メーター、3000~5000袋)がやっとであろう。
欧米の場合、フィルムのロットは1トン(300000袋~500000袋)からである。

NB商品はたいていユニットプライスの表示がない。PBはユニットプライスをつけなけれ
ばならない。ユニットプライスとは単価価格表示、つまりグラム単価や容量単価など、一定
の単位あたりの価格を表示することをいう。一般に日本人はモノを買うとき、「1個いくら」
は意識するが、「100グラムあたりいくら」という意識がうすい。「値嵩」(ねがさ)という
表現(300円ならこれ位の嵩がなくてはという表現)は日本だけの単語ではないか。おとな
りの中国へいくと何でも1斤(500グラム)単位でものを買う。ヨーロッパでは1ポンド単
位である。板チョコレートも100グラム、200グラム単位である。常にユニット価格で購
買行動をおこしている。

PBの「100均」、「ワンコイン」商品も日本だけではないか。ダイソーの100円ショップ
の商品は1回の発注ロットを欧米並みの発注ロットにして成功した。知人の工具メーカーがそ
の発注数量の大きさと利益のなさに驚いたが資金繰りのためには有難い注文であったと述懐
していた。しかし食品の場合は問題が多い。結局味はどうでもよい、食べられればいいという
レベルの商品が氾濫することになり、そうなっている。

さらにムシについて言及したい。チョコレートについては「ノシメコクガ」(ノシメマダラ
メイガ)の発生が頭痛の種である。特にピーナッツのような豆類には頻繁に発生する。こ
のムシが発生したという理由で店頭の商品撤去を要求する量販店が多い。マスコミの記者
も不勉強で「チョコレートからウジ」とセンセーショナルな見出しで書く。バイヤーは困
惑して言う。NBではムシの苦情はほとんどないのに、どうしてうちのPBは苦情が多いの
か。農産物の保管については農水省と厚生省(現厚労省)では違うのだと説明するが分か
ってもらえない。農水省もNBメーカーも燻蒸については公表しないのでPBメーカーは
バイヤーを説得できない。厚労省は害虫駆除に薬品の燻蒸を禁じている。ピーナッツの購
入先にまさか薬品燻蒸をしてくれとは言えない。燻蒸をすれば発生を抑えることはできる。
だからと言ってNBメーカーが燻蒸しているからでないのだとは言えない。その現場をお
さえているわけではないのでバイヤーを説得する力は弱かった。このムシはどこにでもい
る。保管倉庫、運搬車両、売り場の棚、どこにでも住みついている。ダイエーのバイヤー
の中に国立大学の理工学部を卒業したのがいた。このバイヤーは「うちのシェルフも掃除
したことがないから、一方的にメーカー責として処理できない」と寛大だった。生菌数が
ゼロだという生菓子もある。そのパッケージには手作りしている風景が描かれている。ノ
シメコクガのクレームがない商品、一般生菌数がゼロの生菓子。信じがたい商品が日本に
は存在している。

何度も繰り返すが「美味しいものは裏で作って表で売る」、職人が腕をふるって商品を作
っていた流通革命以前の製造・販売時代を今一度振り返ってみる必要がある。現代ではこ
の表現をふりかざして大量生産したエセ手作り商品(現代用語で手作りもどき)も氾濫し
ている。私は機械生産が主流となった1960年代からダイエーのPBを生産してきたが
姑息な手法はとらなかった。常に美味だと一定の評価をうけている原料にこだわってPB
商品をつくってきた。

さきにダイエーのノーブランド商品の成功例について述べたが、当時の担当バイヤーが私
の理屈は「屁理屈」だとバカにしていたが、実験はしてみる価値はあるといって採用した
のが、日本チョコレート工業協同組合の原料、MD(ミルクチョコ・デラックスの略)を
使った板チョコであった。ロッテのガーナと互角の売上げであった。しかしバイヤーがか
わるとすぐカットになった。NBより売価が2割安くなく、値入も3割なかったからだ。
私はこの話を繰り返し書いた。

消費者が良い商品を見分ける力を持っている証だ。メーカーが良心に恥じない商品、さら
に分かりやすく言えば、自分の親や子どもに安心して食べさせられる商品を作っていれば
問題はないのであるが。自分の会社の商品を家族には食べることを禁じているというよう
な話を聞くと全国区で販売しているメーカーを俄に信じることはできない。

量販店(特にコンビニ)にも問題はある。われわれ食品業界に長いものにとってコンビニ
で販売している食品はどれも満足するに足るものがない。だが、あるとき満足できる「ト
マトジュース」を見つけた。カゴメのトマトジュースであった。毎日飲んでも飽きること
がなかった。やっとローソンも「ほんまもの」を売るようになったかと感心していた。と
ころが3月ほど経ったある日、それは別ブランドに置き換えられていた。有名な外国ブラ
ンドだった。飲んでみるとカゴメのものと比較にならない品質であった。価格は同じであ
った。これを境にカゴメのトマトジュースはどこのコンビニの棚からも消えていた。磯部
晶策はカゴメのトマトケチャップについて重要なアドバイスをしたと同書に書いている。
こうして悪貨が良貨を駆逐していくのである。

<つづく>

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