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「ナショナルブランドとプライベートブランド」(3)

投稿日: 2009年12月21日

「ナショナルブランドとプライベートブランド」(3)

私はチョコレート業界のカリスマと量販店業界のカリスマの間にはさまれ右往左往して
いたと先週書いた。一人は中内功、もう一人は葛野友太郎。前者はあくまでも商品の価格
にこだわった人であり、後者は商品の価値にこだわった人であった。中内功については多
くの人々が評論しているので、私は何も書かない。19歳の時に目にした彼が平野町の薬
局の店頭で忙しく立ち働いているときの姿が私の脳裏に残っている。最初に取引を申込み
にいったときの相手は弟の中内博だった。中内功と直接口をきいたのは千林店のダイエー
1号店の開店直後の混雑する売場の中であった。「よけい売れるな、もっと持ってこい」
が初めての会話であった。

ダイエーがその後急速に成長していくことを誰も見抜いていた人はいなかったと思う。見
抜いていたのは中内功とその弟の中内力だけではないか。彼はその後、変身と変質を繰り
かえしていくのであるがその度にこだわったのは価格であった。ドイツのボックスストア、
アルディーを模した「ビッグエー」をはじめ、「トポス」、「コウズ」と新業態に挑戦する
とき決まって口にするのは「安い価格」であった。彼があまりにも偉大すぎ、中内力をの
ぞき誰も中内功に意見するものや諫言できるものはいなかった。

プライベートブランドにしてもNBとくらべ売価は2割安いこと、品質はNBと同じかそ
れ以上のもの、粗利は3割以上あること、と大枠が中内CEOによって決められていた。
この硬直化した前提では価値(品質)がなおざりになってしまう。先に述べたように表示
違反がなければ、何でも承認されてしまうようになる。江崎グリコのポッキーのそっくり
商品は多くの量販店によってつくられた。それらの中の原料表示には、植物性油脂ではな
く獣脂が使われていたものがあった。これは明らかに偽和である。サプライヤーは韓国の
メーカーであった。

大きな組織になると自分で開発したにもかかわらず、自身でそのPB商品を評価したり、責
任を持ったりするバイヤーはそれほど多くない。外部から100人ほどのモニターを連れて
きて味やデザインの評価をさせる。品質については「品質管理センター」などが法令に違
反していないかどうかを検証する。バイヤーは安く提供できる商品を開発することに専念
する。ところが自分の作ろうとしている商品を競合商品と比較して食べ比べるという基本
的な行動がほとんど無い。「おいしい」とはどんなことか、「安全であるか」について深く
追求することは滅多にない。これは量販店のPBだけではない。上場企業の食品業者にも
多い。

偽和商品という言葉は人口に膾炙されていない。かわりに偽装商品という言葉が使われだ
した。この表現こそ日本人の言葉の言いかえである。「敗戦」を「終戦」と言いかえたよ
うに、偽和チョコレートをマル準チョコレートと表現して、一般の消費者にマル準チョコ
レートがあたかもチョコレートであるかのように誤認を与えている。偽和商品という言葉
は英語に古くから存在していた。私が19世紀末のチョコレートの文献を読んでいて「偽
和商品に気をつけろ」という文章に出会ったことについては先にも書いた。磯部晶策が言
うように日本は偽和天国であるがため、「偽和」という言葉は市民権を得られなかったの
ではないかとさえ思われる。

ミートホープ社を同社の役員が、たった一人で「偽和」を告発したテレビの特番を見た。
当初、監督官庁の農水省も厚労省も真剣に取りあわない姿勢が描写されている。「偽和」
は「犯罪」であるという認識が第一線の官吏にないことが分かる。同じように開発する方
にも「犯罪」であるという認識は希薄である。

ダイエーで同業他社に負けないあるチョコレート商品の開発を要請された。調べてみると
バージンのチョコレートを使ったのではこの価格はでない。大企業のチョコレートは毎年、
数百トンもの返品がでる。その包装紙を剥いでインゴッドにする返品処理業者のチョコレ
ートを使っていると私は断定した。「ダイエーはこんなチョコレートを使ってでも競争す
るためにPBをつくりますか」。「私はつくりたくない」。「使うのであれば中内社長の許可
をとってください」、とバイヤーに言った。バイヤーは中内社長に稟議したかどうかは知
らないが、後日、このチョコレートプロジェクトは中止された。1960年代まではまだ
ダイエーは品質についての判定基準は良好に機能していた。

チョコレートの返品を再加工することを容認している日本のメーカーにも責任がある。市
場から返品された物をそのまま、1キロ、16円で返品再生業者に販売し、再生後、1キ
ロ、200円前後で販売されていることを知っているにもかかわらず、放置している。そ
の他、チョコレート原料の賞味期限切れのものも春先に安く出回る。たとえば、スシャー
ルの原料チョコレートは1キロ、2000円であるが、賞味期限を余すところ3ヶ月を切
る頃から1キロ、400円になる。これを購入したメーカーが原料としてつくった商品は
元の賞味期限が過ぎて売っていれば偽装しているということになる。しかし、前者(返品
処理品)はあきらかに偽和である。加工食品業者には、経営者の倫理を問われるところで
ある。

一般的な日本の量販店のPB(PBは日本の呼称、欧米ではPL(Private Label)と呼ぶ)は先
に述べたダイエーの開発基準と大差はない。品質はNBと同一もしくは少し上の「わけあり
商品」を狙う。PLの供給業者は毎年PLMA Trade Show(Private Label Manufacturers
Association)を開催している。NBに負けないような品質管理、大量生産技術、大量生産
設備を持っているメーカーがPL専門業者たらんとしている。PLの中にはノーブランド、ジ
ェネリックブランド(GB)、ノンフリルが主流を占めている。印刷は一色刷りで印刷費を
切りつめ、1個あたりの規格は500グラム、1キロと単位は大きい。

世界で最高の技術・設備をもったナンバーワンのNBメーカー、もしくは専門メーカーが
PL,GBを供給している。たとえばスイスのスシャールが英国のマークアンドスペンサー
の板チョコを供給しているが、単品あたり200トンの契約で、毎月の予定納入数量を年
初に提出している。5品目のPBを作ろうとすると1000トンのオーダーである。完全
に販売リスクを負わなければならない。日本の小売業では、これほどの数量をオーダーで
きるところはない。高級チョコレートのメーカーとして有名なスイスのベルンラインで江
崎グリコのオーガニック板チョコ2点(ミルクとダーク)を作ったことは先に述べたが、
数量的にはとてもマークアンドスペンサーのようにはいかなかった。

<つづく>

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