Blog

ヨーロッパのマイスターを訪ねる旅行 (7)

投稿日: 2010年3月22日

ヨーロッパのマイスターを訪ねる旅行 (7)

18時から井上優による講義④が始まった。

I.   マチのアイデンティティ      ① 「文化指数」 (都市の文化指数の変化)

II.ミセのアイデンティティ          ①  「マチの選択」

III.マーチャンダイジングの選択   ①  「売るもの」の選択

                ②    「売りかた」の選択  (小売業の変化)

                ③    「売る場所」の選択 

IV.経営のかたちの選択      ①  「家業」と「企業」

課題①  ヨーロッパのミセを どう見るか

  ②  自分の参加する店を どう見るか

井上優の都市のアイデンティティについて、「良い店が、いい都市をつくる」とある。日本にもこの言葉があてはまる都市はいくつもある。しかしイタリアほどこの言葉通りのマチが多くあるところはないのではあるまいか。良い店は、良い住民が育てるといわれている。イタリアで、訪れる町々に住む住民の誰もが自分のマチほど良いところはないと自慢する。老人は「生まれてから一度もこのマチを出たことはない」と胸をはるのである。若者も「祭り」には必ず帰ってくる、といって自分のマチに誇りを持つ。

今回の旅行の目的は「匠」(マイスター)を訪ねることにあったが、「祭り」、「食」、「店」、「手工業」、「美術」、「音楽」をキーワードとして「マチ」を観察することでもあった。日本の「マチ」とイタリアとの大きな違いは、その「マチ」がこれらのキーワードをすべてみたし「マチ」として完結していることである。日本においてもそれぞれの「マチ」に特産物があって「匠」と呼ばれる人がいる。しかしその他のキーワードはすべてみたされているだろうか。「祭り」はなるほど各地にあるが、本来、祭りがもつ土着のにおいの濃い催しでなければならない。イタリア各地にある名の知れた祭りは、日本のそれと同じようなものもある。たとえばグッビオ(Gubbio)の「ろうそく祭り」Corsa dei Ceri)やフォリンニョ(Foligno)の祭り(Giostra della Quintuna)がそれである。なかでもヴェネチアのカーニバル(Pascqua=Easter)は有名である。(ヨーロッパでチョコレートが最も売れるのはイースターで、うさぎと卵のチョコレートである。)

イタリアの祭りと言えば「音楽祭」であろう。ヴェローナの野外劇場はつとに有名である。これについては改めて書く機会があるだろう。しかし、イタリアにはもっと土着的な祭りがある。それはサグラ(Sagra)と呼ばれるもので、小さな聚落で催されるお祭りである。ちょうど日本の盆踊りのようなものである。小さなマチ、ムラ、が郷土愛を示す絶好の場所である。ムラの若者たちが近隣から集まる人々を接待する。接待には家族総出で用意した手作りの料理をだす。トリュフがたくさん取れるムラではトリュフが振る舞われる。サグラのときにだすとっておきのサグラ・ワインも自慢のひとつである。後年、ウンブリアに暫く住んだときあちこちのサグラに行った。決して豪華な料理ではないが、その土地特産の食べ物が用意されている。

このような習慣はウンブリア以外にもあるであろう。イタリア人が「食べて、歌って、恋をして!」(mangiare, cantare, amore)は、日本の昔の盆踊り光景も同じようなものであった。サグラに行って疎開先の鹿児島で経験した記憶が蘇ってきた。今夜はどこでサグラがあるか、配られたチラシを見ながら、近所の人たちと、ここか、あそこかと行き先を決めるときは楽しいものだ。ソーセージばかり造っているマチがある。今まで見たこともないような腸詰めを味わえるのはこのときしかない。

井上優が「マチのアイデンティティ」という言葉の意味を本当に理解したのは、このサグラをあちこち経巡ったときであった。おらがマチの特産品をサグラのときだけのワインとともに存分に振る舞って、「どうだ」と自慢する郷土愛。このような素朴な顕示欲はいつから、どこから始まったのであろうか。Sagraを辞書で調べるとfestival, feastとある。まさに「村祭り」をやって、村人たちは自分たちのムラのアイデンティティを毎年確かめあっているのだ。日本の村おこしとは根本的に違っている。サグラには商業的な匂いは微塵もない。土着の宗教との関わりがあると思われるがその宗教的儀式も集まってくる人たちに押しつけることもない。日本の盆踊りも宗教的な色彩がないのと同じである。

<つづく>

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

2022年4月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

最近の記事

  1. 私と音楽

    2023.03.5

PAGE TOP