2010年04月21日
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『食の大正・昭和史—志津さんのくらし80年—』 第七十三回 月守 晋
●結婚の準備(2) 前回のつづき 10.フレンチフライパン(手付き鍋に金網のざるを入れたもの。煮物を形くずれせず取り出せる) 2円 誌上に紹介されている台所用具全品を購入すると198円7銭かかることになる。 『にっぽん台所文化史』(小菅桂子/雄山閣/‘98)には昭和5年11月号の「婦人倶楽部」に掲載された「三越マーケット台所用具係が選んだ新世帯道具」のうち30円内外と50円内外でそろえられる品数・価格一覧が引用されている。 夫婦2人の勤め人の新世帯用に標準的な“万人向き”の品を選んだということなので、孫引きをちゅうちょせず引用してみよう。 [参拾円内外]の部は「御飯茶碗 4ヶ 40銭」で始まる。以下お椀4ヶ60銭、お箸1膳15銭、同1膳9銭(夫用と妻用か?)、箸箱1ヶ45銭、湯呑み2ヶ30銭、西洋皿3枚48銭、小皿5枚45銭、やかん1ヶ40銭、急須と茶碗1そろい70銭、茶筒1ヶ25銭、茶托5ヶ30銭、菓子器1ヶ50銭、ニュームお釜(6合たき)1ヶ1円、ニューム鍋小1ヶ30銭、大1ヶ60銭、お玉杓子1本10銭、七輪1ヶ40銭、バケツ小1ヶ28銭大1ヶ50銭、すり鉢1ヶ35銭、すりこ木1ヶ7銭、まな板1ヶ55銭、等々で50品目計23円66銭である。もっとも高価なものは「ねずみ入らず」の6円だ。 ちなみに「ねずみ入らず」はねずみに食われぬよう食物を入れておく網戸の戸棚である。 50円内外でそろえようとなると基本的な品目に変わりはないが単価が高くなり、スプーン、ナイフ、フォークといった洋食用のものが加わり、七輪はガス七輪になり(1ヶ1円40銭)、庖丁にも肉切り庖丁が加わってくるのである。いずれにしてもその日から生活が始められるよう品ぞろえされている。 志津さんが参考にするとすれば、「30円内外」の部だったろう。三越の台所係はさらに70円、100円という標準も選んでいるのだが『にっぽん台所文化史』には除外されている。 ふとんは“嫁入り道具”として欠かせないもので最上の高級品はふとん地が正絹のものである。正絹地にも厚く光沢のある紋を浮き織りにした緞子(どんす)、縦横に色違いの縞模様のある綾(あや)織りの八端(はったん)、白くつやのある羽二重(はぶたえ)、よりのかかっていない糸で織った銘仙(めいせん)と段階がある。 正絹地につづいて正絹に人絹を混ぜたものがあり木綿物がある。 中に入れる綿も上等な白綿から混ぜ物をしたものまで幾段階もあった。現在のように羽毛ぶとんや羊毛ぶとんは普及していなかったのでずっしりと重味のあるふとんも少なくなかった。 嫁入りには夫用と自分用、それに来客用と合わせて3組は持参するのが慣例だった。この他に夫婦それぞれの座ぶとんを1枚ずつ、お客さん用に1組5枚の座ぶとんも必用とされていたのである。 |
食の大正、昭和史