月守 晋

チョコレート人間劇場

森福 都

2010年03月10日

34 「……男の声は、高級なベルギー産のチョコレートのように上品な苦さと甘さで常に女を酔わせてくれた。」
「アディクティド」/『クラブ・ポワブリエール』/森福 都/徳間文庫

addictedは辞書を引くと「[通例 be ~ed]の型で使われて<人が>[麻薬などに]中毒になる/夢中になる」と説明されています。

作家・森福都は『長安牡丹花異聞(ちょうあんぼたんかいぶん)』で96年に第3回松本清張賞を受賞、同じ年にジュニア小説のジャンルでも優秀賞を獲得してデビューした作家です。

『長安牡丹花異聞』は没落した高級財政官僚の息子が母親に孝養をつくすために月光を受けると怪しく輝く「夜光牡丹」の開発に努めるというストーリーで皇帝主催の花競べ「花賞習元」に一席で選ばれれば5万銭という大金が手に入る。それを偉丈夫の衛士、胡人の美女、そして主人公黄良の3人組が獲得に乗り出すという展開。

森福さんの経歴をみると山口県生まれで広島大学医学部総合薬学科の卒業です。“総合”というからには欧米の薬学だけではなく和漢方の薬学を併せて学ぶ学科なのではないでしょうか。『長安牡丹花異聞』に収載されている他五編の中国古代王朝時代を背景とする奇談を読んでいると、中国の医薬学を歴史的にも奥深く学んだ学徒の消閑のすさびという感じも受けるのです。

さて冒頭の一説は『長安牡丹花異聞』とは打って変わって、自宅で英語の技術翻訳を仕事にしている34歳の人妻流子を探偵役とする連作形式のミステリー短編集の中の1作から引用したもの。

書名にもなっている「クラブ・ポワブリエール」は流子がメールを配信するメーリングリストの名称でもあります。

「アディクティド」の舞台はゲームセンター。「高級なベルギー産のチョコレートのような」声の持ち主はそのゲームセンターの店長、といってもただの店長ではなくて、一流大学経済学部出身、横浜駅周辺に百以上もの不動産を所有する大地主の三男で乗馬とスキーで体を鍛えているという38歳の独身。

この店長の魅力の虜になった友人の環の願いを容れて小学生の少女優里のためにそのゲームセンターでプーさんのぬいぐるみを釣り上げる破目に陥った流子は、やがてこのゲームセンターのからくり解明に到達します。

『クラブ・ポワブリエール』は流子のパソコンメールで配信されるメンバーの書いた「小話シリーズ」に事件が紹介され、それを夫の大野拓也が記述発展させていくといういわば“入れ子式”のストーリーです。

ところで、ベルギー産をはじめとする外国産チョコレートの真の味を知るには、“本物の”“美味しい”チョコレートを数多く味わうのが最善の方法です。

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