〔あの雑誌が創刊号のころ〕■野性時代■
1999/7/2
文芸月刊誌「野性時代」の創刊は昭和四十九年(1974)年五月である。
B5サイズの横幅を、正規の182 ミリから178 ミリに詰めてある。
全302 ページ、定価500円。版元は角川書店だ。
文芸月刊誌、と書いたがいわゆる”純文学”の雑誌ではない。
かといって、読み物中心の”大衆誌”でもない。書き手の顔触れも井上靖、松本清張、星新一、唐十郎、片岡義男、
フレデリック・フォーサイス、会田雄次、大沼忠弘、柴田翔、李恢成、イザヤ・ベンダサン、半村良、そして上山春平、藤森栄一、武藤雄六、水谷慶一と分野が広い。
触手をあっちこっちに伸ばして、読者の反応を探ろうとしていたのかもしれない。
井上、松本の両大家がそろって並んでいるのは、何かの記念行事の式典や落成式と同じで創刊の祝賀挨拶のようなものだろう。
力を入れて売り出そうとしているのは巻頭グラビアにも登場している片岡義男で、
「日本の新しい感性が放つ爽快なサーフィン小説」という惹句つきの「白い波の荒野へ」を書いている。
唐十郎の名は、若い世代には「大鶴義丹の父親で、紅テントで有名だったアンダーグラウンド・シアターの状況劇場の親玉だった人」とでも説明したら、
「あ、そうなの」と納得してもらえるかもしれない。
昭和五十七(1982)年下半期の第88回芥川賞を『佐川君からの手紙』でもらっている。
戯曲のほうでは『少女仮面』で四十四年に岸田賞を受賞している。
この創刊号のころは、小説にも手を染めはじめていた時期だったのだ。
李恢成は樺太出身の在日朝鮮人二世。四十四年に『またふたたびの道』で雑誌「群像」の新人賞を取ってデビューした。
『砧をうつ女』で四十六年下半期、第66回芥川賞を受賞、朝鮮半島にルーツをもつ作家としては初めての受賞だった。
巻末は半村良の「闇の中の系図」450 枚を一挙掲載。
『らせん』『ループ』『リング』三部作の鈴木光司も、この雑誌の第十三回新人賞受賞が出発点だ。