月守 晋

チョコレート人間劇場

渡辺怜子

2010年06月30日

41「ハシバミの香りのする濃厚なチョコレートが、グラッパと混ざって口の中で溶けた。」
『フィレンツェの台所から』渡辺怜子/文春文庫

この文庫本の元になった単行本は1992年5月に晶文社から出版されています。 文庫本は2003年の出版ですからほぼ10年が過ぎ、それからさらに7年後の2010年にこの文章を書いているのですから大ざっぱに言って20年も前の本を取り上げていることになります。

だいじょうぶでしょうか? 中味が古臭くなっていないでしょうか?

「スローフード」という言葉を耳にしたことが、あるいは目にしたことがありませんか? スピードに束縛されているファーストライフの狂気から自らを解放するために生まれた運動はまず、ゆったりした時間の中で伝統的な食を復権させるというスローフードという考えを核に運動が始まっています。

『フィレンツェの台所から』が直接スローフード運動と関係があるわけではありませんが、内容はまさに“スローフードな”イタリアの食紀行です。

この紀行には思いがけない知識や面白いお話も随所に挟まれていて、それがこの紀行をいっそう内容豊かなものにしています。

フィレンツェに著者が買ったアパートは向かいに昔、カテリーナ・デ・メディチが幽閉されていた修道院があり、そこから絶叫するような鳴き声のつばめの一群が飛んできて目を覚まされます。 このつばめは日本で目にするつばめとは違う種類の「ヨーロッパあまつばめ」で、つばさが非常に発達しているのとは反対に足が退化していて地上を歩けない。 飛びながら虫を捕食し眠ることができかん高く叫ぶ。

汚染されたフィレンツェの空気をのがれてわたしたちになじみの「スズメ目のツバメ」が消え去った後に、公害に強い彼らが入ってきたのだということです。

イタリア人は野生の動物や鳥類の肉も大好きでよく食べ、著者の友人フランコとマリーザ夫妻の家の冷蔵庫には兎、鶏はもちろん雀まで収納されています。

しかし3人いる息子のうち長男は完全なベジタリアンできんぴらごぼうやお豆腐が大好き。

親の嗜好を子どもに押しつけないのもイタリア流でしょうか。

さて冒頭の文章。グラッパは「葡萄のしぼりかすを発酵させてから蒸留したりリキュールの一種」と説明されています。

著者の娘さんが絵画修復の技術をウィーンの大学で学び、その卆業制作にイタリアの画家レアンドロ・バッサーノの絵の修復をします。 画家の生地はグラッパの産地として有名な土地で、著者はバッサーノとトレヴィーゾを訪れる旅に出て、トレヴィーゾでグラッパ入りのチョコレートも買って、その場で1つ食べてみたのです。

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