月守 晋

チョコレート人間劇場

中井貴恵

2010年01月27日

31. 「田園調布のローザのロシアチョコを再び食べたい」
『赤毛のアンを探して』中井貴恵/角川文庫

中井貴恵さんは幼稚園児や保育園児の親、病気や不自由な肢体をもつ児童やその親たち、多くの小学生・中学生、養護施設でくらす人びとや関係者たちには「大人と子供のための読みきかせの会」の代表で朗読を担当しているひととしてのほうがよく知られているのではないでしょうか。

でも70歳代以上の年齢のおじさん・おばさんたちは、“あの佐田啓二の娘でワセダを出て女優になったひと”という記憶のほうが強いだろうと思われます。

父親の佐田啓二は伝説的な“美男俳優”でした。

昭和27年4月、NHKはラジオドラマ「君の名は」の放送を開始しました。戦時中、空襲かの東京で出会った若い男女が有楽町の数寄屋橋での再会を約して空襲のため名前を聞く暇もなく別れます。戦後、運命に翻弄されるように二人は再会しそうになりながらすれ違いを繰り返し時が過ぎ去ります。果たしていつになったら二人は再会できるのか、というわけでこのドラマは「放送時間になると銭湯の女湯がガラ空キになる」といわれるほどの大ヒット番組になりました。

「君の名は」は翌28年映画化され映画史上最大の興行収入を上げましたが、主演の真知子役に岸恵子、そして相手役の春樹を貴恵さんのお父さんの佐田啓二が演じ一躍人気俳優におどり出たのでした。佐田啓二は残念ながら37歳という若さで交通事故で死亡しました。

さて『赤毛のアンを探して』は貴恵さんの5冊目の本です。最初の本『ニューイングランド物語』は婚約者の留学先である米国ニューハンプシャー州のハノーバーで結婚生活をスタートさせた貴恵さんが「交通信号が3つしかない」町で1年半を過ごした‘くらしの報告書’です。

この報告書には極上の充実した1年半の日々が、てらいや飾りのない極上の文章で綴られていて読む者に至福の時間を与えてくれます。

その品の良さは『赤毛のアンを探して』までの4冊の著作にもそのまま受け継がれています。

さて冒頭の文章は「東京⇄四国うまいもの便」の項の一節。『ニューイングランド物語』を読んだ四国は香川県の女性から「ピカピカに光った身のしまった目刺し」がおくられてきて始まった東京と四国間の“おいしい物交換便”はやがて、お互いに自分の食べたい物を指定するようになり、四国の女性が貴恵さんにFAXでリクエストしてきたものです。

あなたは「ローザのロシアチョコレート」をごぞんじですか?

貴恵さんのエッセイはいまも文庫本でよめるはずです。

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