月守 晋

A petty talk on chocolate

■柳田国男の「水曜手帖」■

■柳田国男の「水曜手帖」■
1999/1/23

明治4(1871)年11月、外務卿岩倉具視を特命全権大使とする明治政府の外交使節の一団が、欧米各国への訪問の旅に出発した。
一行は翌々年にフランスでチョコレート工場を見学し、『米欧回覧実記』に「人の血液に滋養を与え精神を補う功あり」と記してい
る。

それから50年後の大正10年、民俗学者の柳田国男がスイス・ジュネーブやフランス・リォンのチョコレートの話を書いている。
柳田は同年5月、国際聨盟委任統治委員に選ばれ、7月にジュネーブに入りし、10月まで委任統治委員の仕事をした。

「ジュネブの名物は、何と申してもチョコレートであります」と柳田はいう。
「通な人が土産に求めて還り、茲(ここ)のをたべては外のはたべられぬなどとよく申します」と。
しかし、同じような噂(うわさ)はフランスでも聞くし、「里昂(リオン)」ではたくさん売っている。
さらに南のタラスコンの停車場近くにも、巨大な森永式の工場と広告がある、と話をつづける。

しかし、柳田の話の眼目は、
「原料のココアは一粒だってできないヨーロッパに、はるばる阿佛利加(アフリカ)の品物を呼び寄せて、こうして盛んにチョコレートを嘗めさせている」
という点にある。

そして「たった一種の小事業にも、各大陸の協同が必要なことを証拠だてている」と結論し、
余分の厄介な税というものがなくなるのが、いわゆる人種差別の撤廃であって、
「ジュネブの良い御菓子は、此れから売れ出すのかも知れませぬ」と締めくくっている。いかにも、複々眼をもっていた人の談話ではないか。(『定本柳田国男全集』第3巻)

TM記

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