月守 晋

A petty talk on chocolate

〔人それぞれの・・・〕■俵万智■

〔人それぞれの・・・〕■俵万智■
1999/7/23

俵万智が歌集『サラダ記念日』で衝撃的なデビューを果たしたのは昭和62年である。
もっとも、前々年の第31回角川短歌賞で次席、前年の32回で首尾よく賞を射止めていてその道の人たちの間では、気になる存在ではあったらしい。

しかし、一般に知られるようになったのは『サラダ記念日』の刊行以後で、<「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの>に代表される作品群は、
「みそひともじ」の世界に隔絶感を抱いていた老若男女に「へぇー、そんなのありか?」と新たな目を開かせた。

この歌集には全部で434首の短歌が収録されている。特色はなんといっても、使われているボキャブラリーの軽やかなこと。そして、それらのことばが喚起するイメージの湿度
の低さ。リキテンシュタインやウォーホルの絵の気分だ。
高橋源一郎は言う、「コピーが詩人たちを青ざめさせたのはつい最近のことだった。
今度は短歌がコピーライターたちにショックを与える番だ」と。

434首の歌の中には、カンチューハイだけではなく、いろいろさまざまな食べ物飲み物が現れる。
それらが「カンチューハイ」のように、ある情況や対象(多くのばあい男性だけれど)との心理的な距離、愛憎を浮かび上がらせる。冒頭の「サラダ」もそれで、一首
を引けば<「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日>である。

いろいろさまざま、と書いたが歌の中に現れる飲食物は数えてみると62種類だ。
そば、うどん、湯どうふ、天ぷらなど伝統的なものも混じっているけれど、
やはりオムライス、カニサラダ、ケチャップ、アスパラガス、マクドナルド、コーラ、ミックスベジタブル、
アイスコーヒー、スナック菓子など現世代の嗜好に属するものが多い。

『サラダ記念日』は1987(昭和62)年5月8日に発売された。手元にある版は同年8月10日の発行で153版になっている。
その間、わずか3か月。ほぼ毎日、午前と午後に1回ずつ増刷した勘定になる。発行部数は最終的には200万部を越えたということだ。

ちなみに、チョコレートも歌われている。<雪の上駆けゆく子らの長ぐつがマーブルチョコのようで ふるさと>
<チョコレートパフェを好める弟を抱きしめてまたふるさとを発つ>の2首。
「原作・脚色・主演・演出=俵万智、の一人芝居」それが「歌集」だと言っている。

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