月守 晋

A petty talk on chocolate

■「ザッハトルテ」の物語(2)■

■「ザッハトルテ」の物語(2)■
1999/3/26

ザッハーとデーメルの訴訟が20数年にもなったのは、お互いにコンディトライ(高級菓子店)としての名誉がかかっていたから、だろう。
結果はザッハー側が勝訴した。

しかし、判決は「オリジナル」と名乗れるのはザッハーだけ、ただし、トルテは両方で作ってもよい、というものだった。
「いかにもオーストリア的判決」と書いた本もあるのだが、つまりは、どこかで敗者の面子も立てておく、ということなのだろう。

ところで、デーメル側が「オリジナル」を主張する根拠はどこにあったのか。
『ヨーロッパお菓子漫遊記(吉田菊次郎/時事通信社)』には、デーメルの息子とザッハーの娘が結婚し、その結果、デーメルもトルテを売りはじめた、という説を紹介している。
そしてやはり訴訟ざたになり、9年の裁判の果てにホテル側が勝った。が、市民はデーメルのトルテのほうをひいきにした、という。
これには年代が明記してないので、いつのことかはわからない。

ところで、ガリマール社の”Guides GALLIMARD”の訳本(1995年、同朋舎出版)には「商標をめぐって訴訟を続けている」という説明がついている。
これによると、「デーメルにザッハーから職人が移った」ことが根拠になっているらしい。
いつ移った、とは書いてないのでわからないのだが。

そうすると、訴訟は’95 年現在進行中のものもふくめて、過去に2回、現在進行中の1回の計3回ということになる。
デーメルも帝政時代には王宮のご用達だったという。
うーン、老舗の名誉を守るのも、大変な大事業なんだ。

「ザッハートルテ」を手短に説明すると、チョコレートを練り合わせたスポンジの台に、チョコレートの衣を着せたトルテである。
ザッハーとデーメルの違いは、ザッハーのトルテはスポンジの台を上下二つにし、間にアンズのジャムをはさんであるが、デーメルのほうはジャムをはさんでない。
両方とも、砂糖抜きの、泡立てた生クリームぞえである。

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