投稿日: 2009年5月17日
ニューヨークのバレンタイン(2)
2月11日の午後、デパートメントストアの「サックス・フィフス・アベニュー」
(SAKS Fifth Avenue)を見る。エキサイティングなデパートである。
ピンからキリまでの品揃えをしているのが日本のデパートである。SAKSは自分たちの狙った階層に的を絞りピンから20~30%のところのまでの品揃えをしている。確かな手応えのある商品に絞りこんだ専門大店というべきか。
実際に中に入ってあたりをみるとこのデパートにふさわしいファッションを身につけた客ばかり
である。立ち居振る舞いも周囲の雰囲気とバランスを保っている。明確な来店客の絞りこみがで
きている。食品売場は文具と同居で別館にあった。スペースは小さい。しかし気の利いたギフト
になるようなアイテムが並んでいた。
「サックス・フィフス・アベニュー」(SAKS Fifth Avenue)と日本の百貨店と大きく違うとこ
ろは金持ちだけを相手にするファッションの専門大店である点だ。そのむかしSAKSは制服を着
たお抱え運転手づきの婦人たちの行くデパートであった。クレジットカードはSAKS発行のもの、
アメックス、ダイナースの3種類しか通用しない。これほど売り手が客を選ぶ小売店は日本には
ない。
SAKSでは金持ちであればどこの国の人でも上客として迎えられる。「インターナショナル・シ
ョッピング・サービス」が行きとどいていて英語以外のどんな言葉でも応じられる。どんな商品
でも客がほしいと言えばすぐ応じられるように常に用意されている。次に「フィフス・アベニュ
ー・クラブ」の会員になれば最小限の時間で贈答品や衣服が買えるようなシステムが利用できる。
同じように一般的な固定客にたいしては「パーソナル・ショッピング・サービス」がある。日本
の百貨店の法人外商や家庭外商とは似て非なるもので買上実績がなくてもよいのである。会員に
なるには客の好みの色や趣味、嗜好など個人の情報を入れたファイルを作らされるだけある。な
にか欲しいものがあれば電話で依頼する。店はこのファイルに基づい客の好みに合うような商品
をそろえてくれるので購買の時間を節約できる。各階を買い回らなくてもよい。このような3本
柱の存在はSAKSの強みである。買いものの楽しみよりいかに時間を節約するかが大切なキャリア
ウーマンに評判がいい。
2月12日(土)、早朝、ニューヨーク在住の主婦、モトコ・ノリスの案内でアジア人の住むゾ
ーンにある個人経営のスーパーマーケットの小型店と中型店、そしてデリの小型店を見た。フイ
フィスアベニューにはないニューヨークの息吹と活気が感じられホッとした。庶民の生活感の感
じられる売場に遊びは一切ない。
モトコ・ノリスと別のデパート「ヘンリー・ベンデル」(Henri Bendel)を訪問。特定の女性を
対象にした専門大店である。それはスリムな女性、(サイズ 2~10)のみを相手にするとい
う大胆なマーケットセグメンテーションを行っている。ショップ・イン・ショップのブティック
街(専門店街)を創ったデパートと言われている。ブルーミングデールが参考にしたインショッ
プ形式のコンセプトをじっくり観察するため再訪問することにした。
次に彼女はミッドタウン・ウエストにある「スイートテンプテーション」(Sweet Temptation)
を案内してくれた。狭い店内を一瞥して再訪問することを彼女に告げた。芥川製菓が販売してい
る電卓チョコのようなガジェットはここの店主が芥川製菓のものを真似したのか、あるいはその
逆か、そのようなことを考え再訪をきめた。
ここでモトコ・ノリスとは別れアッパー・ウェスト・サイドにあるデパートでその呼び声も高い
「ブルーミングデール」(Bloomingdale’s)へ行く。メーシーと並ぶ大型店である。「ニュー
ヨークベスト200店」を読んで最も行きたかったところの一つであった。日本チョコレートの
経営を任されている自分にとって、1年で最も忙しい時期にニューヨークを訪問した理由は、ま
ず日ごろの些末な仕事から自分を解放して無の境地で彷徨することであった。必ず将来に役立つ
マーケティングの手法と販売促進のしかけを得ることができると思った。このデパートにはそん
な刺激が待ちかまえていた。(通用するカードはブルーミングデール・カードとアメックスのみ)
売場づくりはテーマから始まる。「サタデイズ・ジェネレーション」(Saturday’s Generation)、
土曜日しか買いものを楽しむことができない若者たちを相手にするファッションの売場。感度の
高い若者、しかしまだそんなに高給を今は取ってないが将来はブルーミングデールの確実な顧客
になる若者に狙いを絞っている。そのマーチャンダイジングした売場は魅力あふれたものであっ
た。詳細については省く。憎いテーマであることに感動した。売場をみてそのテーマと合致して
いることにバイヤーの並々ならぬ時代感覚と商品選択に脱帽した。Tシャツ、カジュアル衣料、
デザイナーブランド、ジーンズ、靴、アクセサリー、ヘアースタイルまで幅広い品揃え。サタデ
イズ・ジェネレーションの手にとどく価格設定は言うまでもない。
「ヤング・イースト・サイダー」(Young East Sider)略して Y.E.S. 流行に敏感で最新の流行を取りいれるニューヨーカーと呼ばれる生活者のための売場。流行の展開5段階説のイノベーター、アーリー・アダプターの連中がターゲットである。ターゲットとなっている顧客はブルーミングデールの創り出すニューヨーカー・スタイルに乗りやすい人たちではなかろうか。テーマもニューヨーカー・スタイルそのものである。
「デザイナー・ブティック」(Designer Boutiques)。
ヘンリー・ベンデルのショップ・イン・ショップにヒントを得たと言われているが規模が違う。軒をつらねてシャネル、ジバンシー、バレンティノ、ウンガロ、ニナ・リッチ、スタンレー・ブラッカー、ペリー・エリス、カルバン・クライン、サン・ローラン、ジョルジョ・アルマーニー、ソニア・リキエル、ラルフ・ローレン、ミッソーニ、ブラスポート、が1本のレーンをはさんで並んでいる。ライトの明るさを抑えてかもし出される雰囲気は一歩ブルーミングデールに足を踏み入れた客は息をのむこと間違いない。かく言う私も息をのんだ。
ブルーミングデールは「劇場としての店」というコンセプトで演出している。「サタデイズ・ジ
ェネレーション」、「ヤング・イースト・サイダー」Y.E.S.、「デザイナー・ブティック」の
ファッション・マーチャンダイジングはこのコンセプトを具現したものである。テーマはまだ続く。
「モデル・ルーム」(Model Room)、「ザ・メイン・コース」(The Main Course)、
「B・ウェイ」(B’Way)、「ステイショナリー」(Stationery)、「デリカシーズ」(Delicacies)、「レストランズ」(Restaurants)、「ジ・エスプレッソ・バー」(The Espresso Bar)、「ル・トレイン・ブルー」(Le Train Bleu)の全部で11のテーマに全店規模のインポート・フェアとあわせて12のテーマになる。日本の百貨店は多くのことを学び真似ている。しかしこれほど「劇場としての店」としてのまとまりはない。
<つづく>
参考:マキシン・ブレイディー著「ニューヨークベスト200店」(ツタガワ・アンド・アソシエーツ)
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