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復刊するにあたって

投稿日: 2008年6月8日

さて、Divinus Cibus を復刊するにあたってテーマの選定に手間取り、本日になった。私がチョコレート業界に入ったのは単に父がチョコレート屋であって自分が長男であったから漫然と菓子屋を引きついだというのが率直なところである。しかし、世間はそんなにあまいものではない。次から次に降りかかるピンチをどう切り抜けたかをテーマとして書いても書ける。が、しかしそのようなネガティヴな話は誰もが書いている。私にだけしか経験できなかったことを書くつもりである。中小企業、それも家内企業の長男として育った私の幼年時代は戦争の真っ直中、国民学校3年生から父の故郷、鹿児島に疎開し中学2年生で大阪に戻った。中学、高校を通じて一人の労働者として朝な夕なに菓子作りを手伝わされた。親の束縛から逃れたい一心から東京の大学を受け合格した。親が反対するものと感じていたがなにもいわず喜んだ。父は東京市場を開拓して学資は自分で稼げとけろりとして言った。しかし、大学に入ってすぐ会社が大赤字で倒産寸前だから立て直しに戻ってこいと呼び返された。父は営業の立て直しを私に期待した。古くからの問屋は、現金問屋に絞りこんで、手形取引の問屋は整理した。当時、平野町で道をはさんでサカエ薬品と天理薬品が大衆薬の安売り合戦を繰り広げていた。そこで私は父と一緒に二つの薬局を訪問した。私たちはサカエ薬局と取引することにした。このことは先に書いた。これが私の生涯の運命をかえたのであった。サカエ薬局に決めた決め手は社長の中内博が洋書で “Marketing” を読んでいたから。当時、長男の中内功は戦後のヤミ取引の問題で表舞台から身を隠していた。彼はその頃、サカエの店頭で客の依頼する薬のピッキングをしたり、レジの打ち込みをしたり、忙しそうに働いていた。それまで百貨店、鉄道弘済会、小売店、問屋等で資金繰りにあえぎなら経営していた父の会社はサカエ薬品やパチンコの景品問屋のような時流に乗った得意先の取引を拡大し経営の安定を図り、私は大学に戻った。19歳からダイエーと取引を始めダイエーの盛衰をともに過ごし様々なプロジェクトに携わった。おかげで、ダイエー以外の多くの量販店、ノイハウス・ジャパンの立ちあげ、味覚糖株式会社、ソニー・クリエイティブ・プロダクツ株式会社、江崎グリコ株式会社、株式会社モロゾフ、明治製菓株式会社のマキシム・ド・パリ、三越等のOEM(相手先ブランド製造)を請けられたものと信じている。特に私が58歳のときにベルギーで設立したベルジャンチョコレートヨーロッパ(BCE)で海外開発商品をてがけ、株式会社ベルジャンチョコレートジャパン(BCJ)を通して多くの得意先に納品できたこと。これらの仕事は誰もが経験出来るものではない。手元に残っている多くの商談簿、日誌、出張報告書をもとにこれから世界を見据えたビジネスを目指す人たちにドキュメンタリー風に書きつづってみたい。チョコレートの蘊奥を極める話を語るつもりはない。また苦労話や自慢話を書くつもりもない。真に美味な菓子を求めて日本とヨーロッパを駆け続けた50余年を振り返ってみたい。自分の使命(天職)はグローバル ナンバー ワン、グローバル オンリー ワンの商品を開発して消費者に届けることである。そしてそれを実現できた喜びを伝えたい。ときには単なる便利屋、立ち上げ屋、井戸掘り屋と呼ばれたが仕事の達成感は何ものにも代えがたい。先に書いた「リンゴチョコ」が私の最初のPL(Private Label)である。そして長寿商品でもある。しかしその商品も今や風前の灯火である。原料表示で中国産のリンゴと書く必要がなかった時代から、中国産と表示しなければならない時代になるであろうことから消費者の選択がより厳しくなることが予想されること。使用しているチョコレートが純チョコレートでなくなっていること。これらが風前の灯火であると書いた理由である。ダイエーの初期のPB(プライベートブランド)ピーナッツ チョコレート、ノーブランドというPB、セービングというPB、クーゲルンというビッグエーのPB、クローガーというPB、そ して多くのバレンタイン商品、多くの短命に終わった美味な板チョコ、シュガーレス板チョコ、江崎グリコのマカデミアナッツチョコレート、オー ガニック板チョコの数々...題して、Divinus Cibus を探し求めて50余年-『チョコレートの聖地巡礼物語』- 将来、株式会社ベルジャンチョコレートジャパンのホームページにある『チョコレート宇宙誌』に引っ越しするかもしれない。まもなく月守晋の『食の大正・昭和史―志津さんの暮らし80年』を『チョコレート宇宙誌』に連載する。メルマガで同じく月守晋の『チョコレート人間劇場』をお届けする予定である。

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