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初めての海外旅行(2)

投稿日: 2008年6月22日

1965年5月28日

パリに着いた翌日、パリ郊外にあるクルヴォアジェというガナッシュ専門のメーカーを弟と訪問し
た。その日は寒かった。10℃を切る寒さで震えあがった。
パリ東駅を9時15分に出発して50分ほどでモー駅 (Meaux) に到着。Courvoisier 氏が駅まで
迎えに来ていた。

工場は100坪、2階建ての典型的な中小企業。従業員は10名。日産、約500キロ。売上は
3000万NF(日本円で2億2000万円)、小売店に直接卸。売価の55%掛け。1個、2グ
ラムのガナッシュが1個、30円。ゴディバ、コート ド フランスは1個、1F(73円)だった。
パリのボンボン ショコラは和菓子の「半生」のよう傷みやすく繊細な趣をもつ。

凱旋門の近くのチョコレート専門店で評判のガナッシュである。それはコニャックの
Courvoisier Napoleon のロゴをつけて販売しているからである。社長の本名が Courvoisier
であるためコニャックメーカーがロゴの使用契約を認めたそうである。もちろん工場には
Courvoisier のナポレオンがケースで積みあげられてあった。

工場には30センチ巾のエンロバーが1台とシェイキングテーブル、クリームビーター(底面は石製)、
キッチンにはビゼルバの秤、100キロのミキサー、50キロケットル、流し、
ガスバーナー2基、作業台3台と保温室。面白かったのはこの保温室であった。

3坪ほどのモルタル張りの部屋にガスストーブをいれて四六時中、暖めている。そこには使い
かけのスイート、ミルククーベルチュール、ガナッシュ センター等を保存している。またモールド
をすべて収容してあった。これは極めて合理的で、朝から直ちに作業に取りかかることが可能になる。

Courvoisier 特製ナポレオン ガナッシュのレシピ
① クーベルチュール(スイート)   40kg
  ココアパウダー           2kg
② 牛乳               10リッター
  バター               2kg
  生クリーム             5リッター
  白バター              2kg
  砂糖               10kg
  水飴                3kg
  薄いフォンダントクリーム      2kg
③ エチールアルコール         2リッター
  コニャック             8リッター

②を100℃までクックし ① とケットルで練る。ケットルに熱はつけず冷えてきたら ③ をい
れてしばらく練る。センターとして型抜きしてエンロバーでチョコレートを被覆する。これには笑
うに笑えない後日譚がある。1965年秋、このレシピを参考にして5~6種類のチョコレートをつ
くり高島屋に持って行ったところ、これは絶品だと言ってケースを一本くれた。1週間後、チョコ
レートとセンターの間に青カビがびっしりと生え、即刻、販売中止となった。日本の温度と湿度は
このような水分活性値の高いレシピのガナッシュには向いていない。

当時、シュプリュングリのチョコレートを現地から郵送する(今でいう産地直送)という画期的な
販売をしていたのが高島屋であった。最初、うまいと言って購入を決めた課長が渋い顔をして、
「ぼんぼん、がんばりなは れや」と慰めてくれた。カビではもう一度苦い経験がある。マロングラ
ッセにチョコレートをエンロバーしたものに、やはりチョコレートとセンターの間に青カビが生えた。
今度は水分活性値ではなく嫌気性のカビであった。美味しいものは傷みやすい、と嘯いてはいられなかった。その後新製品を販売するときは大阪工業技術試験所に持ちこんで検査や指導を仰い
だ。

                                       <つづく>

Courvoisier Napoleon

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