投稿日: 2009年1月3日

ダイエーのＰＢ誕生（７）　　　　　　　　　　　　　　
１９７８年８月、フランスのカルフールが打ちだしたジェネリックブランドを真似て、ダイエ
ーが「ノーブランド」を発売した。西友グループの「無印良品」の発売は１９８０年１２月で
あった。この「ノーブランド」には日本チョコレートから板チョコを提供した。当時も今も国
産のミルクチョコレートなら、日本チョコレート工業協同組合のミルクデラックスがナンバー
ワンであろう。これを原料とした４０グラム板チョコはダイエーの売れ筋ナンバーワンであっ
たロッテのガーナと良い勝負をしていた。 このミルクチョコがどれほど長命であるかは、
日本チョコレート工業協同組合のウェブサイトを見ればわかるであろう。
今も昔も同じレシピ、包装で毎年１ロット（１００トン内外）を売り切れご免で直販している。
１９７９年には鳴り物入りで「ビッグエー」が開店した。
ダイエーのキャプテンクックのチョコレート６品目をクーゲルンというブランドに焼き直して商品
化した。 １９８０年２月、ダイエーの売上高が業界初の１兆円を越えた。同年３月、消費者のニーズに
応えるべくトポス（岡山市）１号店が開店しキャプテンクックよりも値打ち品としてＰＢセー
ビングが誕生した。１９８４年にニューセービングが発売されそれまでのノーブランドとセー
ビングが統合された。ＰＢのコンセプトが猫の目のように代わり、その時々に納入業者は価格
引き下げ圧力を受けることになる。その圧力を受けきれなくなればメーカーと直結することを
ダイエーは辞さなかった。「中抜き」である。価格は相対的なもので安くなれば商品価値も微
妙に落ちる。素人にはどう違うか区別がつかない。評価するプロが日本の流通業界にいないこ
とだ。ダイエーの斜陽化は「良い品をどんどん安く」の良い品が少なくなっていったことから
始まる。 同時代に出た日本版のジェネリックブランド、「ノーブランド」は「ニューセービング」に吸
収されてしまい一般消費者の記憶からも薄れていったのではないか。現在でもセービングブラ
ンドはダイエーで販売されているが、西友のＰＢノーブランドから始まった「無印良品」はダ
イエーの「ノーブランド」や「セービング」より知名度も高く、その商品は国内にとどまらず
アジア、欧州、アメリカと世界的規模で現在も存在感のあるブランドとして知られている。こ
れは良品計画という会社が一手に製造販売しているからである。アメリカで生まれたＰＢとい
う概念でつくられたものとは概念が異なっている。 アメリカのＰＢで驚くのはニーマン・マーカスのＰＢ食品である。チョコレートはベルギーの
老舗、ノイハウスがつくっていた。かの有名なアガサ・クリスティーがもし投獄されるような
ことがあれば聖書とニーマン・マーカスのクリスマスカタログを持っていくと言ったそうだ。
これは至言である。あっと驚くような商品が満載されたカタログを眺めていると子供にかえっ
たような気分になる。このような新鮮な驚きと喜びをあたえるＰＢや専売品をつくるにはそれ
なりの知識と才能が要求される。商品づくりには社長自らメーカーに出向いている。高額商品
の企画は高額所得の人間が必要である。 １９８５年１２月、ダイエーがアメリカのクローガーと提携したとき「クローガーハウス」と
名付けたダイエーでは珍しく文化の薫り高いＰＢクリスマス商品ができた。ダイエーのキャプ
テンクックのお菓子をいろいろ部品として詰め合わせ、母親と子供が「お菓子の家」をつくる
という夢のある商品であった。作りあげたら家族みんなでクローガーハウスを中心に写真を撮
って送ってくださいと応募用紙を入れた。送られてきた写真を見るとその一家の生活が手に取
るように分かり、供給者と消費者が写真によって交流できる素晴らしい企画であった。応募者
全員にダイエーから粗品が送られた。この商品は長寿商品で２０年以上販売された。 ただこの商品には後日談がある。ダイエーはこの商品の配送業者に発売したばかりの「ゆうパ
ック」を指名した。翌日配送を売りものに郵政省がヤマト宅急便や佐川急便の向こうを張って
始めた事業だった。クリスマスの繁忙期にダイエーとローソンから１万個、２万個、３万個の
単位で出荷され出すと「ゆうパック」は完全に麻痺状態になり遅配の苦情が殺到した。先にも
書いたがこのとき時の郵政大臣、佐藤恵に直接電話で事情を話し解決のために動いてもらった。
直ちに吹田郵便局から局員１名が日本チョコレートの事務所に常駐して苦情電話の応対にあ
たった。ダイエー内部では「ゆうパック」を利用したため受けた多くの苦情に対して、商品部
の失態問題が表面化していた。しかし郵政大臣まで動かしたとあって問題は急速に沈静化しバ
イヤーのメンツが立った。 特注品のＰＢとしては、１９８２年から始まった大阪女子マラソン大会にダイエーが協賛参加
した第１回から第２０回まで参加者全員に配るダイエー専売品のチョコレートがあった。同じ
ような特注品のＰＢは１９９３年の福岡ドームの開場記念のメダルチョコレートがあった。こ
れはドイツのコインチョコレートメーカーに鋳型から特別制作させ、製造させた精巧なもので
あった。１回かぎりの記念品としては豪華そのものだった。このころがダイエー繁栄の頂点で
あった。それぞれのＰＢについてまだ書き足りない気もするがこれで十分であろうとも思う。
＜この項おわり＞