投稿日: 2009年7月12日
ニューヨークのバレンタイン(10)
2月16日、ニュージャージー、ホワイト・プレーンズを東京ツァーズの安藤進に案内してもら
った。ホワイト・プレーンズのパラマスはショッピングセンターのメッカといわれているところ
だ。
ニューヨーク、マンハッタンから電車で30~40分、車で1時間足らずの好立地(35キ
ロメートル)のうえに、衣料品の物品税はゼロであることがさらにニューヨークからの集客力を
強めている。ニュージャージー州はブルー法(Blue Law)によって、日曜日は営業できない。
ユダヤ教徒とイスラム教徒の強い土地柄のためであろう。しかし激しいショッピングモール同志
の熾烈な競争が多くの魅力を生み出している。ふだんはそれほど忙しいわけではない。ゆったり
とした気分で広い売場をウインドーショッピングする人たちで賑わう。しかしクリスマス、バレ
ンタイン、イースター、母の日、父の日、サンクス・ギビング・デーともなると高額商品が次々
売れて日ごろの赤字を一挙に埋めるのである。
1957 年開店。ウエストフィールド・ガーデン・プラザ(Westfield Garden State Plaza)。
アンカーショップ(Anchor shops=核店、マグネット店): ニーマン・マーカス(NeimanMarcus),
ノードストローム(Nordstrom), メーシー(Macy’s), ロード&テイラー(Lord & Taylor)、
JCペニー(JCPenney)。.敷地は 198 エーカー (O.8Km2)。
1957 年開店。ベルゲン・タウン・センター(Bergen Town Center)。アウトドアのショッ
ピングセンターである。敷地は 101エーカー (80.1 km2)。残念ながら最初のモールはリノヴ
ェーションのため2006年に取り壊された。今や全米で2番目の高密度商業集積モールとして蘇
った。アンカーショップ:Saks Fifth Avenue OFF 5TH Outlet
1968 年開店。ザ・ファッション・センター(The Fashon Center)。敷地は 35 エーカー
(14.16 km2)。アンカーショップ: ロード&テイラー(Lord & Taylor)、B.アルトマン
( B. Altman and Company)、南北の端に二つのデパートを配して460メートルのモール
にはロジャーズ・ピート(Rogers Peet)、この店舗は後にブルックス・ブラザーズ(Brooks Brothers)
と入れ代わった。ジョージ・ジェンセン(Georg Jensen)、そしてアン・テイラー(Ann Taylor)
といったハイ・エンドファッション店が並ぶ。開店当時のコンセプトは五番街のミニチュア版
として計画された。駐車場には露天でベスト&カンパニー(Best & Company)があったが
年にはトイザラス(Toys “R” Us)が取って代わった。
1974年開店。パラマス・パーク(Paramus Park)。最新にして最大のショッピングセンターである。
敷地は 66 エーカー (26.7 m2)。アンカーショップ:メイシーグループ
(Macy’s,Macy’s Premier Salon)。シアーズグループ(Sears、Sears Miracle Ear, Sears Vision Center)。
ギャップ(Gap, Gapkids)を初めて見たのもパラマス・パークであった。
ここパラマスに来て実感したことはこれほど多額な投資をして激烈な競争をしているところは
日本にはない。敷地の規模については比肩すべくもない。競争の質については知恵比べという他
はない。日本ではお目にかかったことのないプライシングに瞠目した。現在の値札は98ドルの
パンツが1週間先の価格88ドル、2週間先の価格78ドル、3週間先の価格68ドルと表示さ
れているのだ。パラマスの住人であれば週ごとに来て売れているかどうか確かめることも可能だ
ろう。しかしマンハッタンから来た買い物客にとっては自分にピッタリだ思えば2,3週間先に
来ても売れ残っている保証はない。ましてやXS、S、XLのサイズは数が少ない。見つけたと
きが好機とばかり人々は買うであろう。10年ほど前から創業したこの店、SYMSは5店舗目
だという。この人間の購買心理をついた巧みなプライシングはどこかヘンリー・ベンデルの2~
10サイズにだけしぼった品揃えの知恵と相通じるものがある。
ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)については、2008/09/29「アメリカの流通業界の現
場を見る」にも書いたが食品のPBについて触れておく。チョコレートのPBはエピキュリアン
(Epiqurian)という。
社長のスタンリー・マーカス自らがこれこそベストと信じる商品をPB
として開発するのである。ブランド名も夢を感じて良い。食品の売場をみたが「本もの」の商品
が選ばれている。ブルーミングデールやメーシーはややもするとブーム商品やブランドに左右さ
れた商品があるが、ニーマン・マーカスはエピキュリアンの商標どおり真に快楽につながる食品
本来の要件を備えたものを取り扱っている。チョコレートのプラリネはベルギーのノイハウスで
エピキュリアン・ブランドのプラリネを委託加工しているが、売場ではノイハウスブランドのプ
ラリネがエピキュリアン・プラリネより20パーセントも安い。発注ロットの多寡で価格は決まる。
PBはNB(ナショナルブランド)より2割は安くなければならないとステレオタイプな固
定概念でPBを開発している日本の流通業界では「本もの」商品のPB化は無理であろう。
日本のPBがPBとしての真価を発揮できない最大の理由はロットが小さいことに起因する。1
回の発注ロットが5トンだ、10トンだというオーダーでは世界のチョコレートメーカーからす
れば小さすぎるのである。世界的な見地からPBのロットは3直5日間の生産量が歓迎される。
3直とは8時間労働で3交代、つまり24時間ぶっ続けで生産することである。この生産を5日
間、つまり1週間続ける。このロットで生産すればナショナルブランドより20パーセント安い
売価が可能になり得る。菓子の生産ではほとんど無理な数字である。したがってニーマン・マー
カスのように「本もの」に狙いを絞ってNBより2割高いPBを開発すべきであった。
日本のPBは「安かろう悪かろう」といわれる商品しか生まれなかった。また日本には菓子のPLMが
21世紀になっても誕生しないのである。[PLM=Private Label ManufacturerつまりPL(=
PB)の生産を専業とするメーカーのこと。そのメーカーが世界規模で協会を結成している。]
包材についても日本と欧米では違う。最低発注量が1トンである。日本の場合、2000メート
ルとか3000メートルが最低ロットで印刷業者(大日本、トッパン)が仕切っている。フィル
ムであれば、モービルに直接オーダーしなければならない。印刷して包装できるまで17週間が必
要である。すべてが根底から違うが、価格は何故こんなに安いのかと思うほど安い。
コストコ(USA)やアルディー(ドイツ)の発注数量はすさまじい。40フィートコンテナで
20コンテナから30コンテナもある。これらの製品は受注したメーカー以外では請けられない数々の
ノウハウを持っている。従業員は僅かな中小企業である。日本の平均的な中小企業より小さい企業で
あることが多い。実際に「本もの」は中小企業の独壇場だと思う。コストコにしてもアルディー
にしても徹底的に安い価格で勝負している。しかしPBは安くないのである。しかしこのPBに
対抗できる商品が市場にないのである。競争のない商品を製造すれば中小企業は対等にコストコ
やアルディーと取引出来るのである。PB商品は彼等の利益商品であるし顧客にとっても魅力あ
る商品なのである。
日本の流通業界の競争は基本的にぬるま湯につかった状態の競争である。パルマスのショッピン
グモール、4ヶ所を朝8時半から夕刻まで見てまわったときの感想である。ウィンウィンとか共
栄共存と口では簡単に言うが、本当に流通業界を勝ち抜くには命をかけた投資と人間の心理をつ
いた科学的なアイディアや知恵が必要である。1979年にダイエーが鳴り物入りで開店したビ
ッグエーはいつまで経っても主流にはなり得ない。アルディーに例を取れば商品の絞りこみに際
して食に精通したプロのバイヤーがいること、その商品の供給先を組織化するコーディネータが
いること、に尽きる。ドイツで培ったノウハウをアメリカで生かす「力」を持っていたことであ
る。トレーダー・ジョーを知れば彼等の活力に尊敬の念を抱かざるにはおれない。マーケティン
グマンは広く売場を見学し深く考えなければならないと思った。
<つづく>
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